【花と私 #01】写真家・石田真澄さん “日々の花に、目を向けてみる”

生活の中に花を取り入れるきっかけは人それぞれ。美しく、日々変化する花の姿に魅了される人もいれば、お気に入りの場所に好きな花を飾る瞬間に幸せを感じる人もいるだろう。
連載「花と私」では、さまざまな人に花に心ひかれる理由を聞いていきます。第一回目は写真家の石田真澄さん。光を追い求め、ハッとさせれる日常のワンシーンをフィルムに焼き付けてきた彼女が花に魅せられた理由とは?


 

Profile

 

石田真澄 ● いしだ・ますみ 

1998年生まれ。埼玉県出身。2017年個展『GINGER ALE』(2017年)が話題に。その後、2冊の写真集を刊行。また、雑誌や広告のフィールドでも活躍。POCARI SWEAT『ポカリ甲子園』や横浜DeNAベイスターズ『サマータイム ベイスターズ』などのCMを撮影。



 

花を愛する家に生まれて。


石田さんの実家の庭に咲いていた薔薇。「太陽の光が綺麗だった夕方に庭に出て撮りました」(石田さん)

「埼玉にある実家には庭があって、薔薇や紫陽花などのお花を私の母が育てていました。けっして綺麗に整った花壇ではなかったけれど、たくさんの花が咲いてましたね。それで、ある程度育ったら、家の中に飾っていました。部屋の中には小さな一輪の花から、紫陽花とか大きな花もたくさんあって。幼い頃から母が花を飾る姿を横目に見ていましたね

“花の原体験”を語ってくれた写真家の石田真澄さん。2017年に発表した写真展『GINGER ALE』(*1)以降、雑誌や広告で活躍する。仕事を始めるタイミングで、彼女自身もまた、花への興味が深まっていく。

「仕事を始めてから、東京の花屋に通うようになったんです。実家の近所にある花屋にはない珍しいお花が多くて、よく買って帰るようになりました。あと、撮影でお花を使う機会が多いので、終わったら、実家に花を持って帰ったりもしてましたね。なので、部屋の中には“母が育てた花”と“私が持って帰ってきた花”で溢れてました(笑)」

 

*1......石田さん自身が、高校時代の日常を撮影したシリーズ。2017年に5月に表参道のギャラリー・ROCKETで展示を開催。SNSなどで発表していたこの作品をきっかけに石田さんは「写真家」として注目される。

 

「幼い頃に好きだった花は千日紅。マリモみたいで可愛いくて、普通の花より長持ちするから、ずっと飾っていられるのも嬉しい!」と石田さん。



 

母から学んだ“花のケア”。

持って帰ってきた花を1本1本、水切りをする。石田さんの自宅でのワンシーン。

 

石田さんいわく、花を長く愛でるための“基本的なケア”も母の手先を見て学んだのだとか。

「花を花瓶に飾る前の基本的な水切り(*2)とか、母がやってるのを見てました。あと、実家では切り花にした紫陽花の元気がなくなった時に、洗面所の水をためて、花を浸していましたね。そうすると、またすぐ元気になるんですよ。だから、花束を使う撮影の時にスタッフの方が、ハサミで5、6本の花をまとめて“バチッ”と切ると......悲しくなるんです。私にとって、花は生き物と同じなので痛々しくて……。1本、1本をやさしく斜めに切ってあげて!と言いたくなります。私にとって花は“生きてるもの”。そう認識する気持ちは大きいかもしれません」

 

*2......水切りとは、お花を水揚げさせるために、花材の最下部を“水中”で切ること。切り口から“空気の侵入を防ぐ”“切り口の乾燥を防ぐ”効果がある。

 

丁寧にケアした花を、実家で長年愛用している花瓶に活けていく。活け方や、花瓶の選び方は、その日のフィーリング。



 

花と写真の飾り方。


「少し大きめの花瓶はIKEAで購入したジャグです。チューリップをバサっと活ける瞬間が幸せです(笑)」(石田さん)

 

現在は花に囲まれた実家を離れて暮らす石田さん。今住んでいる家の中にも、花は欠かせない。

「いま住んでいる部屋にも、常に花が飾ってあります。花束を持ち帰ってきたら、まずはそのまま大きめの花瓶に活けて、弱ってきた花から抜き、一輪ずつ小さめの花瓶かコップにちょことん挿して家の中に点在させてます。よく飾る場所は、本棚の上とかが多いかな」

 

自宅部屋の至るところに小さな花が飾ってある石田さんの自宅。小ぶりな薔薇の花がコップに浮かぶ。

 

また、新しい生活を機にどうしても飾りたいものがあったのだとか。

「昨年の春に『Pictures For Elmhurst』(*3)というチャリティーセールで、アレック・ソス(*4)のプリントを購入しました。椅子の上に、ただチューリップが飾ってある写真で、茎の曲がり方とか可愛いんです。誰かの部屋の中にただ置かれたような、飾りっけのない雰囲気にも強く惹かれます。この写真は絶対に新居に飾ろう!と心に決めて、1年間あたため、ようやく飾れました。写真だと、花の美しい瞬間をずっと閉じ込めておけるので、また違った魅力がありますね

 

*3……2020年の4月、コロナの影響で困窮するNYのエルムハースト病院を、写真を通じて支援するプロジェクト。世界の写真家187名が写真を提供して、通常のオリジナルプリントより安価で発売。利益は病院に寄付された。

*4.......1968年生まれ。現代のアメリカを代表する写真家。サンフランシスコ近代美術館やヒューストン現代美術館など、名だたる美術館に作品が収容されている。

 

自宅の本棚の上には、花と緑の間にひょっこりと、アクリル額装したアレック・ソスのプリントが並ぶ。

 

日常にそっとある花こそ、美しい。

NYの写真家ジョエル・マイエロヴィッツが1983年に発行した『Wild Flowers』。

“花と写真”といえば、ロバート・メープルソープしかり、荒木経惟しかり、古今東西の写真家たちが、それぞれの“花の見方”を提示する写真集を残してきた。写真家である石田さんが影響を受けた写真集はジョエル・マイエロヴィッツ『Wild Flowers』だと語る。

「NYの街中で発見した花を撮影した作品で、例えば、歩行者が抱えた花束もあれば、人が着ている服の花柄も“花”として一緒に並べられています。スタジオで光を作り込んで撮影した花もたしかに綺麗だけど、私はラフで日常的に見かけるような花が好きなんだと再確認できた写真集です。花ってただそこにあるだけで綺麗じゃないですか。私はそういう“日常の花”を撮影していきたいです」

たしかに石田さんの撮る花はどれも気取らない。部屋の中に何気なく置いている花や、街中で見かけた花をこれまで撮影してきた。

「花を部屋に持ち帰っても、毎回撮影していなくて。花の形と花瓶、その日の光が“なんか綺麗だな”と魅かれたときだけ撮っています。実は、花壇とか、道端に咲く花とか、街を歩いてて良いなと感じた花を撮ることが、一番多いです。最近だと、夏に北海道で撮影をする機会が多くて、そのとき、道端でズラーっと並んだレースフラワーを見つけて、東京だとまず見れない量なので感動しましたね」


今回の写真は、石田さんが提供してくれたもの。これまで撮りためた花の写真や、インタビュー後に改めて撮影した薔薇や千日紅など。「買ってきたり、庭から摘んできた花をどの花瓶に飾ろうか悩んでいる時間が大好きだなと再確認しました」と石田さん。

 

 

お話の締めくくりに「いま、一番好きな花はなんですか?」と質問すると、ちょっとだけ意外な花の名前があがった。 

「ここ1年くらいは薔薇をよく購入してます。きっかけは、たまたまインスタグラムで発見したFjuraというロンドンのフラワーアーティスト。アップする薔薇の写真がとても素敵です! 昔までは薔薇って“豪華なイメージ”が強くて苦手だったんですが、Fjuraの写真を見てると、薔薇にもいろんな種類があるし、飾り方でグンと印象が変わるんだなと。とくにお気に入りは、机の上のコップに一輪の薔薇を刺した写真。生活のワンシーンに主張しすぎない淡い薔薇の存在が美しくて、花があるだけで気持ちが豊になる、そんな当たり前のことを再確認できた気がしました

  

 

石田さんおすすめのFjuraの薔薇の写真。Instagramのアカウント@fjura_で他にもさまざまな薔薇のアレンジを見ることができる。

 

こちらもfjuruによる薔薇を取り入れたアレンジ。「実はこの写真を購入して、既に部屋に飾ってます(笑)」(石田さん)

 

写真/石田真澄

編集・文/恩田栄佑

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