花器作家の「花のある暮らし」
うれしい時も、悲しいときも、なんでもない平凡な時も。さまざまな形で寄り添ってくれる花。LIFFTが目指すのはそんな「花のある暮らし」を広めていくこと。
このシリーズでは、花と人をテーマに、さまざまなジャンルで活躍する人の「花のある暮らし」をお届けします。
今回、お話しを伺ったのは、花器をはじめとした陶器作家である山田賀代(かよ)さん。
自然豊かで穏やかな雰囲気の北鎌倉のアトリエで、制作風景を見学させていただきながら、花器のこだわりや「花のある暮らし」について語っていただきました。
山田賀代 Yamada Kayo
作家。岐阜県出身。2014年東京藝術大学美術学部工芸科陶芸専攻を卒業、2015年にはドイツ Burg Giebichenstein University に交換留学、2017年東京藝術大学美術研究科工芸専攻陶芸領域修了。現在は北鎌倉にて制作活動を行う。磁土という素材の魅力を活かしながら、海や山など自然物をモチーフにした作品を作り出す。
ー独自の技法で、ユニークな器を生み出している山田賀代さん。賀代さんの作品のこだわりとは?
海や山などの、自然の風景を自分を通して作品に投影することが制作の全体的なテーマです。自然のものは、次第に風化したり、朽ちていきますよね。完璧なものではなくそうやって時間の流れの中で姿形を変えていくことを表現していきたいと思っています。そのために、あえてろくろを使わず独自の方法で作っています。ろくろで作る器の完璧な線ではなく、やっぱり不完全で、でも美しいものを目指して。
その中で私は山というより、自分の好きな色である海をモチーフに作ることが多いです。特に蛤などの貝の色が好きで、作品に取り入れています。ここ北鎌倉は自然も多く、海も近いのでインスピレーションの宝庫とも言えます。
ーその技法の秘密は?
よく「どうやって作っているの?」と聞かれるのですが、お答えするのが難しくて…企業秘密というわけではなくて、単純に説明するのが難しいんですね。
色に関して言えば、多くの陶芸品でよくある、器を焼いてから色をつけて再度焼くという方法ではなく、陶器の原料である磁土に最初から色を入れて、焼き上がりにその色が現れる、というスタイルです。
ーどのような経緯で作家を目指し、今のスタイルを見つけたのでしょう?
岐阜県の美濃焼の有名な町で生まれ育った私ですが、実は大学受験で工芸に出会うまであまり意識したことがなかったんです。陶芸作家となった今ではなんだか不思議な縁を感じますが…
学生時代は陸上や新体操に打ち込んだ活発な子でしたね。ただその中で、授業の図工とか、美術はいつも好きでした。高校進学のとき、芸術科のある少し離れた学校を選んだところから、芸術への道が始まったのかな。
美大受験の時に工芸に出会って、面白さを感じ、東京藝術大学に進学。ただ学部時代は模索の毎日でしたね。何十個も同じ器を作る課題に取り組むときなど「自分がやりたいのはこれじゃないなー」と漠然と思いながらモヤモヤしていました。
大学院生の時に、教授の紹介でドイツの大学に交換留学したんです。そこで転機が。自然に囲まれた田舎町の大学で制作に没頭できる環境で、自由にオブジェや器を制作していたことが今の自分のスタイルに繋がっているかもしれません。
ドイツ留学中の山田賀代さん(左から二人目)
ー花器作りとの出会いは?
花器を作ってみようと思ったのは、やはりその自然の表現の先に「器と植物の融合」という考えに至ったからなんですね。例えば料理の器だったら、調理という過程を経た野菜などの「自然物と器」ということになりますけど、その究極が「花と花器」であるかもしれないと思ったんです。野菜のように調理されていない、人の手の加わっていないそのままの自然の物体である花に魅力を感じました。
もともとお花も凄く好きで、特に花の「線」が凄く好きなんですね。花びら、茎、葉…繊細な曲線を描いて成長し、生きる植物たちはどれひとつとして同じ個体がありませんよね。その個体差を見つめるのもまた面白い。
花器は、生ける花を変えることでその作品のイメージもまた変わるところもまた面白いところだと思います。
ー賀代さんは生活のなかで、花をどのように取り入れていますか?
制作や、他のお仕事の息抜きに、お花は毎週一回は買って自分で生けています。お花に触る時間の安らぎ感が好きです。お花屋さんで過ごす時間も結構好きですね。特に南国花や、ワイルドフラワーなど個性的な見た目のものを集めてしまいます。セルディア・カンガルーポー・グレビレア・ゴールド…このアトリエにある花も気がつけばそういうエキゾチックなものが多いですね。
その一方で、いつでも新しい出会いを探しているんです。例えば先日、お花屋さんで縁の形状が特殊なパンジーをおすすめしてもらって。普段は買わない花の新しい側面がを知ることができて嬉しかったですね。そのように新しく出会った花が自分の花器と融合することで、作品の違った一面が引き出せたりするのも面白い。
今回、LIFFT定期便のお花を見て、いつもは自分では選ばないお花や、7月のLAユリなど、これまで見たことのない色や品種が厳選されていて、また新しい出会いがあったのが嬉しかったです。また小分けにしてさまざまな花器に生けることで、一つずつの花を主役にして飾って楽しむこともできるのが素敵なところだと思います。
<お知らせ>
山田賀代さんとLIFFTがコラボします!
KAYO YAMADA SOLO EXHIBITION
2021/9/18-9/26 @LIFFT Concept Shop
<山田賀代さんよりコメント>
お花屋さんで展示ができるというのは、私自身初めてのことなのでワクワクしています。兼ねてより、花器と花が対等に見えるような展示を夢見ていました。どのような見え方になるのかが楽しみ。「この花瓶だったら、この花」「この花には、この花器」いったように新しい組み合わせを見つける会話が生まれたら楽しいなと思っています。