【花と私 #02】モデル・小谷実由さん “自宅でも、路上でも、花を見ると心が晴れる”

 生活に花を取り入れるきっかけは人それぞれ。美しく、日々変化する花の姿に魅了される人もいれば、部屋の中のお気に入りの場所に、とっておきの花を飾る瞬間に幸せを感じる人もいるだろう。

 連載「花と私」では、さまざまな人に花に心惹かれる理由を聞いていきます。第二回目はモデルとして雑誌や広告などに登場し、“おみゆ”の愛称で親しまれる小谷実由さん。Instagramで始めた“#花壇ウォッチャー”で路上の花の魅力を発信しながら、家では切り花や鉢植えも楽しみ、花瓶収集にも熱心な彼女が花に魅せられた理由とは?


Profile


小谷実由●おたに・みゆ

1991年生まれ。東京都出身。ファッション誌や広告などをモデルとして活躍。一方で文筆家としても活動しており、愛する読書、花、純喫茶廻りなどについて、雑誌やwebでの執筆多数。2022年の春に初のエッセイ集『隙間時間』をループ舎より発売予定。愛称は「おみゆ」。

 

街の花壇の作り手に、思いを馳せる。


2021年11月30日におみゆさんが投稿した#花壇ウォッチャー。「街を散歩してたら、良い感じの光を見つけて、その影に薔薇が一輪咲いてたんですよ。素敵だなと思い撮影しました。ちなみに、#花壇ウォッチャーで投稿する花壇の基準は完全に私の好みと気分です(笑)」(おみゆさん)

 

 おみゆさんがinstagramで発信する“#花壇ウォッチャー”の観察対象はさまざま。街で見かけた花壇、駅前や道の端っこの寄せ植えはもちろん、年季の入った飲食店の店先に飾られた造花や、色あせた花柄のプリントもある。そもそも、このプロジェクトを始めたきっかけは?

「最初は、モデルの仕事で撮影現場に向かう途中、ふと知らない誰かの家の前にあったチューリップの寄せ植えに目が止まりました。大きなチューリップが“ドンッ”と置いてあって、その存在感と可愛さに目を奪われてしまって花壇をよく見るようになりました。最初は花壇の写真を“なんとなく”投稿していただけなんですけど、数枚集まっていくうちに自分がまとめて見返したくなったので、#花壇ウォッチャーというタグを作ってまとめはじめました


 2017年の春、思いつきで始めた“花壇ウォッチャー”だが、今に至るまで楽しく続けているのには理由がある。

「街の花壇を観察してみると、花や鉢植えの選び方にその人の個性が出ているなと感じます。花壇を見て、“どうしてこの人は花を植えるのが好きなんだろう?”“どんな花が好きな人なのかな?”とか想像することが面白いです。こうやって、街を歩いて、花壇を見て、知らない誰かに思いを馳せる習慣は、私自身の物事の向き合い方にも影響していますね。喫茶店に行っても隣のテーブルに座ってるおじいちゃんは若い頃デートでここに来たりしたのかなとか、つい勝手に人間観察をして妄想してしまう。それっぽい事を言ってみましたが、単純に見ていると元気になれるから好きなのかも」

 

2021年12月7日のおみゆさんの投稿より。横浜の公園でたくさんの薔薇が咲きほこり圧巻!

 

2021年11月15日のおみゆさんの投稿より。「#花壇ウォッチャーを始めてみて、いろんな人が使ってくれるのは嬉しいです。でも、みんな真面目に花壇をアップしていて、私だけ造花とかもアップするので申し訳なくなります」(おみゆさん)

 

 

自分のために花を買う。

おみゆさんの自宅に飾られた薔薇の花々。

 

 路上の花を観察し続けるおみゆさんが、そもそも花を好きになったのは20代前半のこと。当時、漠然と、日々の暮らしを退屈だと感じていた。少し暗かった気持ちに色を添えたのが花だった。

「20代前半の頃、お金もそんなにないし、毎日同じことをしているような感覚で生活がつまらないと感じていたんです。そんな時、なんとなく花屋で自分のために花を買ってみたんです。それは、何かのつぼみでした。家に飾ってみると、ちょっとずつ咲いていく姿を見るのが楽しくて。毎日、お水を変えたり、お花をじっくり観察したり、1日の中でお花と向き合う時間を作ることで、気分が少し明るくなったんです


 花を愛でる時間があることで、気持ちは徐々に解放していく。

「当時は仕事でいっぱいいっぱいになることもあったんですけど、花に目を向けることで、抱えていた悩みを一旦忘れることができたんだと思います。それが、生活に余裕を持つことに繋がっていたのかなと。それに、季節の花にも詳しくなったので、四季にも目を向けられるようになったのも大きかったと思います。内に閉じていた心が、花に目をやることで、どんどん外に開いていく感覚と言いますか」


「花といえば、モデルの仕事でご一緒するヘアメイクさんがいつもメイク机に花を添えてくれるんです。生き物が近くにあると、気持ちも生き生きするから嬉しい」(おみゆさん)

 

 

意外な場所に、素敵な花瓶は眠ってる。

おみゆさんが松陰神社のリサイクルショップで500円で購入した花瓶。「古い家電や家具の中で、これを見つけたときは衝撃でした。これイケてんじゃん!って」(おみゆさん)。お花は小さい朱色の花をたくさん付ける"ユーフォルビア フルゲンス"

 

 花を好きになるのと同時に、花瓶にも魅了されたとおみゆさんは語る。

「花瓶って極端な話、お花を飾ってなくても可愛いので、オブジェとしてすごく好きなんで。可愛いお花を買ってきたら、それに合う花瓶を選んで、そうしたら、もっと可愛くなるもまた良い! そういうのが楽しいのでついつい買っちゃうんです。セレクトショップで買うこともあれば、フリーマーケットや、街の古道具屋みたいなところでも探します。花瓶って高いものもあれば、古道具屋で500円くらいで売ってるものでも可愛かったりするから不思議ですよね。お宝は意外なところに眠ってるので、花瓶集めには足を使いますよね。それと、買うときは実際に手にとってみて、直感で“可愛い!”って感じれるかが大事。流行りみたいなもので購入すると失敗することも多いので……」

 

boyaで購入した花瓶。「口が広いので同じ種類の花を色違いでたくさん活けても可愛いし、頂いたブーケをそのまま入れても良い感じです」(おみゆさん)お花はカラフルな"スターチス"をはじめ、蕾の"芍薬"、淡いピンクの"モナルダ"など 

 

おみゆさんが祖母の家で見つけた花瓶。「花を入れる物なのに、花がプリントされていて“これ欲しい!”と思いました。狙ってます(笑)」(おみゆさん)

 

 

猫がいる家で花を飾るには?

おみゆさんの愛猫のしらすちゃん。リビングの机に花瓶を広げたら近寄ってきた。お花は左から"キク"、"ラナンキュラス"、"ダリア"、"チューリップ"

 

 おみゆさんは猫の“しらす”と暮らしている。猫が家の中にいると、どうしても花を置く場所を気にする必要がある。

「しらすと暮らし始めてから、無闇やたらに花瓶を家におけなくなりました。花瓶を倒してしまうかもしれないし、花をかじったりしても危険なので……。私が家にいる時は、目が届くので、リビングに飾ったりするんですが、いない時は玄関に置いてます。でも、玄関に常にお花があると、帰ってきた時にすぐ花を観れるのでそれはまた違った楽しみ方として嬉しいことですかね。ユリ科やネギ科のお花などはには危険なのでなるべく避けるようにしています。前に住んでいた家では、洗面所に扉があってしらすが入れなかったので、よくそこに飾っていました。誕生日にお花をたくさんもらう機会があったんですけど、洗面所がお花でいっぱいになったのが圧巻で! 朝目覚めて、洗面所に行く時に驚くのと同時に幸せな気分になリましたね」

 

 

花と楽しく暮らす

 

前半にも掲載した2021年12月7日に投稿した#花壇ウォッチャー、横浜の公園の写真の別カット。

 

 最後に、おみゆさんに「一番好きな花はなんですか?」と聞いてみると、「考えちゃうな……、薔薇かな……」と悩みながら答えてくれた。

「一番最初から好きな花は薔薇でした。この間、横浜の公園で薔薇を見た時にやっぱり好きだな~、と感じました。たくさんの薔薇が咲いていたんですけど、中には垂れ下がって咲いているものがあったりして、それが愛おしくて。同じ薔薇でも、よーく見みてみると全然違うので、一つ一つを見たくなります。いつかは、家のベランダにもたくさんの薔薇を育てたいんですけど……なかなか難しいですよね。あと、薔薇の品種名もユニークな名前がたくさんあるじゃないですか。なぜその名前がついたのか? 想像するのも楽しいです」

 ひと通り薔薇の魅力を語ってくれて取材が終わろうとした時、「いや、チューリップも好きなんですよね」と再び語り出した。

「ステイホーム期間中にチューリップの球根を鉢植えで育てたんです。毎朝ベランダを出ると“はっ……出てる!”と成長に一喜一憂しながら、“伸びたな”“、もうちょい頑張れ!”とか話しかけてしまします。もう、同居人みたいな感覚ですよね(笑)。あと、チューリップは切花で楽しむのも好きですね。光にそって成長していくから、1日目にまっすぐ活けたつもりが、翌日には曲がっている。毎日、成長するチューリップと格闘しながら活けるのも楽しい。で、お花が散ったら、花弁を集めて一枚一枚並べて写真に撮るんです。花弁を観察すると、根元と先端で色が違くてグラデーションになっているのも綺麗で、最後まで楽しませてくれるのが魅力だなと。花はそれぞれに個性があるから、一つに選べないですね(笑)」

2020年4月26日のおみゆさんの投稿より。蕾の中が少し黄色くなっている。

 

2020年5月4日のおみゆさんの投稿より。だいぶ成長して、ピンク色の蕾が出現。

 

2020年5月6日のおみゆさんの投稿より。立派なチューリップに。

 

(クレジット)

写真提供/小谷実由

編集・文/恩田栄佑

 

RELATED ARTICLES

【花と私 #01】写真家・石田真澄さん “日々の花に、目を向けてみる”

 

 

 

タグ: 花と私